「いい商談だったのに、なぜか決まらない」。大型商談で起きるこのズレを、質問の設計で解く本。本書が解いている論点を3つに絞って紹介する。
✓お勧めする人
- 決裁者が複数いる商談を扱う
- 「検討します」で止まることが多い
- 若手に質問の型を教えたい
−おすすめしない人
- 単価が小さく即決が中心の商売
- すでに質問設計が言語化され共有されている組織
著者について
ニール・ラッカム
調査会社ハスウェイト社 創業者
- 経歴
- 行動心理学の研究者として営業の実地調査を主導
- 実績
- 多数の商談を長期観察した大規模調査からSPINの枠組みを導いた
目的
商談は盛り上がった。相手も頷いていた。それなのに「社内で検討します」で止まり、そのまま動かない。大型商談ではこれが頻繁に起きる。
原因を「押しが弱かった」と考えると、次はもっと押すことになる。ところが大型商談では、それが逆効果になりやすい。本書を読む目的は、押し方ではなく、聞き方を設計し直すことにある。
論点1 なぜ「うまい営業」ほど大型商談で失速するのか
著者は、短期で決まる商談と、検討が長い商談とでは有効な行動が違うという立場を取る。小型商談で成果を出してきた人ほど、その型のまま大型商談に臨んで失速する。
- 小型商談 … その場の勢いで決まるため、クロージングの多用が効きやすい
- 大型商談 … 検討が社内で続くため、売り手のいない場所で話が進む
ここが肝心で、大型商談の勝負は面談中ではなく、顧客が社内で検討する時間に移っている。だから必要なのは、その場で納得させる技術ではなく、顧客が自分の言葉で社内を説得できる状態を作ることになる。
いちこ
シュン
論点2 質問を4種類に分けて設計する
本書の枠組みは、商談の質問を4つに分けるところにある。状況(S)・問題(P)・示唆(I)・解決(N)の4種類で、頭文字を取ってSPINと呼ばれる。
重要なのは順番そのものより、話し手が入れ替わっていくという方向性だ。前半は売り手が聞き、後半は顧客が解決の価値を語る。商談の終盤で顧客が「これをやらないとまずい」と口にしていれば設計は成功している。
論点3 いちばん効くのに、いちばん使われていない質問
4つのうち実務で抜け落ちやすいのが、示唆質問(I)である。問題質問(P)で困りごとを聞き出したあと、すぐ自社製品の説明に入ってしまうからだ。
- 問題質問どまり … 「処理に時間がかかっている」で終わる
- 示唆質問を挟む … 「残業が増え、離職にもつながっている」まで顧客が自分で言う
同じ事実でも、後者は放置できない課題に変わる。ここを顧客自身に語らせられるかどうかで、提案の通りやすさが大きく変わる。
なお、質問の型を変えた効果は感覚で判断しないほうがいい。数件の商談で良くなった気がしても、ばらつきの範囲であることが多い(新トークスクリプトの効果を「気のせい」と見分ける)。検証の進め方は その施策、本当に効いたか に。
いちこ
シュン
この本の限界と、次に読む本
翻訳書らしく事例と説明が厚いので、通読には時間がかかる。枠組みだけなら他書でも触れられているが、なぜそう言えるのかまで追いたいなら本書になる。日本のBtoB現場に寄せた実装を優先するなら、高橋浩一『無敗営業』のほうが読みやすい。