大型商談を成約に導く「SPIN」営業術 の書影

大型商談を成約に導く「SPIN」営業術

ニール・ラッカム

「いい商談だったのに、なぜか決まらない」。大型商談で起きるこのズレを、質問の設計で解く本。本書が解いている論点を3つに絞って紹介する。

✓お勧めする人

  • 決裁者が複数いる商談を扱う
  • 「検討します」で止まることが多い
  • 若手に質問の型を教えたい

−おすすめしない人

  • 単価が小さく即決が中心の商売
  • すでに質問設計が言語化され共有されている組織

著者について

ニール・ラッカム

調査会社ハスウェイト社 創業者

経歴
行動心理学の研究者として営業の実地調査を主導
実績
多数の商談を長期観察した大規模調査からSPINの枠組みを導いた

海と月社 / 2009年12月

目的

商談は盛り上がった。相手も頷いていた。それなのに「社内で検討します」で止まり、そのまま動かない。大型商談ではこれが頻繁に起きる。

原因を「押しが弱かった」と考えると、次はもっと押すことになる。ところが大型商談では、それが逆効果になりやすい。本書を読む目的は、押し方ではなく、聞き方を設計し直すことにある。

論点1 なぜ「うまい営業」ほど大型商談で失速するのか

小型商談(その場で決まる) 大型商談(検討が長い) クロージングを畳みかける ◯ クロージングを畳みかける ✕ 反論を論破する ◯ 反論を論破する ✕ 示唆質問で深掘りする △ 示唆質問で深掘りする ◎ 同じ技術でも、商談の規模で効果が逆転する
商談の規模が変わると、同じ打ち手の効果が入れ替わる。

著者は、短期で決まる商談と、検討が長い商談とでは有効な行動が違うという立場を取る。小型商談で成果を出してきた人ほど、その型のまま大型商談に臨んで失速する。

  • 小型商談 … その場の勢いで決まるため、クロージングの多用が効きやすい
  • 大型商談 … 検討が社内で続くため、売り手のいない場所で話が進む

ここが肝心で、大型商談の勝負は面談中ではなく、顧客が社内で検討する時間に移っている。だから必要なのは、その場で納得させる技術ではなく、顧客が自分の言葉で社内を説得できる状態を作ることになる。

いちこ

いちこ

押せば決まると思ってました…。
シュン

シュン

相手が一人で決められるならね。決裁者が別にいる商談だと、押すほど「検討します」が増えるんだ。

論点2 質問を4種類に分けて設計する

S 状況質問 事実を確認する P 問題質問 不満や困りごとを引き出す I 示唆質問 その問題の波及を考えさせる N 解決質問 解決後の価値を顧客に語らせる 売り手が話す 顧客が自分で必要性を語る 売り手が説得するのではなく、顧客自身が語る状態へ移していく
SPINは質問を4種類に分け、売り手が語る状態から顧客が語る状態へ移していく。

本書の枠組みは、商談の質問を4つに分けるところにある。状況(S)・問題(P)・示唆(I)・解決(N)の4種類で、頭文字を取ってSPINと呼ばれる。

重要なのは順番そのものより、話し手が入れ替わっていくという方向性だ。前半は売り手が聞き、後半は顧客が解決の価値を語る。商談の終盤で顧客が「これをやらないとまずい」と口にしていれば設計は成功している。

自分の直近の商談を1件思い出し、質問を4種類に仕分けてみる。ほとんどがS(状況確認)で埋まっていたら、それが失速の原因である可能性が高い。

論点3 いちばん効くのに、いちばん使われていない質問

高 低 課題の深刻さ 状況を聞く問題を聞く示唆を聞く解決を聞く 問題質問どまり 示唆質問を挟む 「困っている」から「放置できない」へ変わるのは、示唆質問の区間
問題を聞くだけでは「困っている」で止まる。放置できない水準まで上げるのが示唆質問。

4つのうち実務で抜け落ちやすいのが、示唆質問(I)である。問題質問(P)で困りごとを聞き出したあと、すぐ自社製品の説明に入ってしまうからだ。

  • 問題質問どまり … 「処理に時間がかかっている」で終わる
  • 示唆質問を挟む … 「残業が増え、離職にもつながっている」まで顧客が自分で言う

同じ事実でも、後者は放置できない課題に変わる。ここを顧客自身に語らせられるかどうかで、提案の通りやすさが大きく変わる。

ただし示唆質問は、相手の傷に触れる質問でもある。信頼ができる前に重ねると詰問になり、商談が閉じる。順番を飛ばさないこと自体が技術になる。

なお、質問の型を変えた効果は感覚で判断しないほうがいい。数件の商談で良くなった気がしても、ばらつきの範囲であることが多い(新トークスクリプトの効果を「気のせい」と見分ける)。検証の進め方は その施策、本当に効いたか に。

いちこ

いちこ

聞く順番を変えるだけなら、明日からできそうです。
シュン

シュン

そう。ただ、どんな示唆質問が効くかは扱う商材で変わる。そこは実例を大量に見たほうが早いよ。

この本の限界と、次に読む本

翻訳書らしく事例と説明が厚いので、通読には時間がかかる。枠組みだけなら他書でも触れられているが、なぜそう言えるのかまで追いたいなら本書になる。日本のBtoB現場に寄せた実装を優先するなら、高橋浩一『無敗営業』のほうが読みやすい。

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